「ボッチプレイヤーの冒険 〜最強みたいだけど、意味無いよなぁ〜」
第24話

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エルシモとの会見編
<相違>



 ここは尋問のために私が訪れた収監所の一室。尋問のための部屋と言っても別に無数の小さな穴が開いたアクリル板にさえぎられて会話するわけではなく、私が滞在するために作られた少しだけ内装のこったつくりの執務室で、そこには紫檀で作られた重厚感がある机とサテン地の少し豪華な、しかしソファーとは違って機能性を重視したデザインの椅子が置かれ、その後ろにはイングウェンザーの旗をかたどったレリーフが飾られている。壁には絵が飾られ、一見豪華ではあるものの城の執務室と少し違うのは、その部屋に扉がないと言う事と絨毯が敷かれていない所か

 その部屋の中ではレリーフを背に私が座り、その後ろにはギャリソンが姿勢良く直立不動の姿勢で、それでいて微笑と一見穏やかな雰囲気を身に纏わせながら立っていて、机を挟んだ反対側にはエルシモさんが木製ではあるものの座る所にはちゃんとクッションのついた、この部屋にあっても特に違和感の無い程度には質のいい椅子に座っている。そんな彼は私からの簡単な説明で先ほどまでの疑念が少しは晴れたのか、やっと落ち着きを取り戻していた

 「では、これがお前たちの国の常識的な収監所と言う事なんだな」
 「ふぅ、ようやく理解してもらえたみたいね」

 疲れたぁ〜
 後ろではギャリソンがエルシモさんの言葉遣いに相当苛立っていたようで、外見上は穏やかだけど内面では「この無礼者、許可がいただければいつでも殺せます」と言うような気配を私にだけに伝わるように出していた。でも、そんな事になってしまったら情報を得られなくなってしまうし、かと言ってエルシモさんに対して何かをしている訳でもないのでやめなさいとギャリソンを叱るわけにもいかない

 なのでギャリソンには「許可なんてしないし、当然そのような事をしてはだめに決まってるでしょ」と伝わるであろう態度を暗に取り続けながらも、エルシモさんには信用してもらえるように笑顔で会話を進めなければいけないと言う、精神衛生上かなり悪い状況での説明をしなくてはいけない状況に陥ってしまった。だけど、この様子からすると何とか理解させる事に成功したようだね

 苦労はしたけど、やっとこちらの意図がきちんと伝わった事にほっと一安心
 でもその気の緩みがいけなかったんだよね。緊張から開放された安堵感から気を抜いてしまって、話の最中ずっと疑問に思っていた事を、ついうっかり何時爆発するか解らない爆弾のような状態のギャリソンへの注意を怠った状態で聞いてしまったのよ

 「しかし、このせか・・・じゃ無かった、この国の収監所ってそんなに待遇が悪かったのね」
 「収監所がどうとか言うレベルの話じゃな、いっ!?・・・はっハイ! 無いでありますです! ハイ」

 ん? 急にエルシモさんの態度が・・・

 バッ!

 ふと思い立って、自分にできる最速の動きでギャリソンの方に振り返る。しかし、ギャリソンは相変わらず外見上は微笑をたたえた穏やかな表情のままだ

 「アルフィン様、どうかなさいましたか?」
 「いいえ、私の思い過ごしだったみたいね」

 ギャリソンに対して微笑みながらそう答え、う〜ん、私の勘違いだったかな? なんて顔をしてまたエルシモさんの方に向き直る・・・いや、直ろうとする振りのフェイントを入れる
 そして、もう一度全力でギャリソンの方に視線を向けると、ほんの一瞬、本当に一瞬だけど鬼の形相のギャリソンを見ることができた。そうかぁ〜こんな表情もできるんだ。そんな感心もしたけど、流石にこれは一言言っておいた方がいいだろうと思い立つ

 「ギャリソン、だめよそんな脅すような顔をしては」
 「しかしアルフィン様、この者のアルフィン様に対する言動や態度はあまりに目に余ります。もし御許しいただけるのでしたら、シャイナ様とまるん様のご希望に沿うよう、絶対に死なないように細心の注意を払って生きている事を後悔させてご覧に入れます」
 「ヒィッ!」
 「だぁ〜かぁ〜らっ! ご覧に入れなくていいって!」

 極上の優しい微笑で、最凶に怖い事を強烈な殺気のオマケ付きで言うギャリソンと、その言葉と気配に震え上がるエルシモさん。とりあえず私の言葉で先ほどまでの強烈な殺気はかなり薄くなったけど、注意されたにもかかわらず完全に殺気を消せないでいる所を見るとよほど怒っているのね。まだ完全には自分を抑える事ができていないみたい

 ギャリソンでもこんな風になる事があるんだ

 私の体調を心配してあわてた事はあるけど、それ以外でこんな風になるなんて、普段のギャリソンからは想像もできないからちょっとびっくり。でもまぁ、私の事を常に第一に考えてくれているギャリソンだけに、その気持ちも解らないでもないけどね

 でも、正直言って流石にこの状況は頭が痛くなるだけなのよねぇ

 それに先ほど放たれたほどの強烈な殺気だと、エルシモさんレベルでは下手をすると耐え切れずに死んでしまう可能性まであるし、そこまで行かなくてもショックで精神に異常をきたす様な事があったら大変だ。魔法で癒すにしても体の傷ではないから完治させるには記憶をいじるか、時間をかけて精神を落ち着かせながらゆっくり直すしかないけど、聞きたいことが山ほどある現状ではそんな状況になっては困る

 まったく、私たちは情報を引き出す為にここに来ているのだと言う事をギャリソンは忘れているのかしら?

 「もぉ、ギャリソン、殺気を放つのは禁止です!話が進まないじゃないの」
 「失礼いたしました、アルフィン様。以後は慎みます」

 私に窘められて、弱いながらも放ち続けていた殺気を完全に消すギャリソン。でも一度持った恐怖心はそれだけで消えるわけも無く、エルシモさんはガタガタと震え続けるだけだった。まったく、こんなになるなんて私が気付く前は彼にどれだけ強い殺気を放っていたのよ。殺気に指向性を持たせる技能と言うのも案外厄介なものね

 「エルシモさんも、もう大丈夫だからいつまでも震えてないでしっかりしなさい。仮にも野盗のリーダーでしょ」
 「本当ですか? 本当にもう大丈夫なのでしょうか?」

 私の言葉に、恐る恐る聞き返すエルシモさん。なんか、怯える小動物みたいになっちゃってるし、よほど怖かったんだろうなぁ。ここは安心させるべきだよねと優しく声をかけようとした所で

 「言葉遣いに気をつけなければ保障は出来かねますなぁ」
 「ヒィッ!」
 
 と後ろからギャリソンがにこやかに笑いながら答えた
 うぐぅ、まったくもぉ! まったくもぉ〜!

 「ギャリソン!」
 「はい、申し訳ありませんでした」

 ギャリソンは私に対して深々と礼をして、今度こそもう発言はしませんと言う態度を示して一歩下がる。ギャリソンはギャリソンで今までの態度がよほど腹に据えかねていたんだろうなぁ。いつもなら私がやめなさいと言えば絶対に逆らわなかったのに

 「と・に・か・く、話の続きをしましょう。先ほども聞いたけど、この国の収監所と私の国の収監所では待遇があまり違うものなのね?」
 「はい」

 ・・・続きを待ったけど、エルシモさんはそれだけしか答えない。もぉ、完全に萎縮しちゃってるじゃない

 「はいじゃなくて! さっき言いかけたでしょ、収監所がどうとか言うレベルではないって。あれはどう言う意味なの?」

 私が問い掛けると、エルシモさんは後ろのギャリソンの方を窺い見てからおずおずと話し始めた

 「それはですね、ここの設備が帝国における最高級レベルなのですであります、はい」

 意味がよく解らない上に、言葉遣いがちょっとウザイ。オマケに目も泳いでいて自信なさげだ
 これなら先程までのしゃべり方の方が解りやすくてよかったよ。流石にこれではいつまでたっても話は進まなさそうだったので、彼に提案、と言うか指示をすることにする

 「エルシモさん、もう無理をして敬語で話さなくてもいいから、自分の言葉で私に説明してくれない? 今のままだと頭に入ってこないわ。後、ギャリソンも私が正式にそうするように指示をしたのだから態度が失礼だからとか言わないように」
 「はい、ではいつものしゃべり方に戻らさせて頂きますです」
 「はい解りました」

 とりあえずは双方の了解を得て話を聞く事にする

 「さっきの話だけど、具体的にどこが最高級だと感じるの?」
 「どこがと言うか、すべてが最高級です。透明なガラス窓なんか貴族の本宅や帝城くらいにしかないし、ベットも俺・・・わっ私が知る限りスプリング付きのマットレスがついているなんてのは、一番安い部屋で1泊4Gもする帝都の高級宿屋でしか見た事がなっ、ありません」

 スプリングが入ってない? なら弾力性ナイロン繊維とか低反発素材が使われているとか? いや、それは無いか。それではスプリングマットレスよりも高価になってしまうし、100年ほど前にあったというゴムとスポンジの入ったマットレスなのかな? それともまさか綿製? あっでもそれだとやっぱりスプリングマットレスよりはるかに高くなってしまうか
 ちょっと興味がわくけど話が進まないし、それについてはまた後で聞く事にしよう

 「それにお湯の入った風呂、それも沸かしたての湯なんて高位の冒険者や貴族くらいしか毎日は入れませんよ。いや、もしかしたら下級の貴族でも毎日は入れないかもしれない」
 「ええっ!?」

 お風呂、毎日入れないなんて・・・それじゃあ、みんな水で体を洗っているという事? 夏はともかく、冬なんかはどうするんだろう?

 「そして何より最高級だと言えるのが食事です。あんな料理、お、私は食べた事がない。過去に一度だけ帝都の高級宿屋で食べた料理が最高だと思っていたけど、ここに比べたら天と地、それこそ私たちがいつも泊まっている安宿の料理と最高級料理店の料理くらいの差がありますよ」
 「そっそんな馬鹿なことって・・・」

 思わずギャリソンの方に振り返る。と言うのもギャリソンからエルシモさんたちに出している食事のグレードを聞いていたからだ

 「アルフィン様、食事は確かにこの城の者たちが食べているものよりかなり落ちるものを出しているはずです」
 「そっ、そうよねぇ」

 刑務所は普通、外の生活よりも厳しくして、もうここに来たくないと思わせるようにしてあるはずだ。だから食事は粗末なのもだし、犯罪者には辛く感じるように規則正しい生活を送らせる。当然この収監所もそのコンセプトで運営させているので、最高級になっているなんて事は無いはずだ

 実際、ギャリソンが言うように私たちどころか、メイドたちが食べているものよりもかなり落ちる料理を出すように指示してあった。なのに

 「あの料理が最高級だというの?」
 「信じられないくらい柔らかくて香りのいい焼きたてのパン、貴重な砂糖が信じられないくらいたっぷり入った上にフルーツのうまみあふれるジャム、町では貴重な新鮮な葉物の生野菜が使われて・・・いや葉物が中心で構成されえいるサラダまでついているし、朝食には毎日卵料理がついてくる。それも一人につき複数個の卵が使われているなんて普通ではありえない話だ! 何より昼も夜もメインに肉が、それも干し肉やパサパサの硬い安物の肉ではなく、肉汁たっぷりの口の中でとろける様に柔らかい生の肉を調理したものまで入っているんだぞ。いや、確かにそれだけなら高級宿屋でも有り得なくは無いが、凄いのは味だ。この味付けがどうやったらこれだけおいしく調理できるんだ? と思うくらい凄く美味い! これが最高級でなくてなんだと言うんだ?」
 「そっそう」

 あまりに興奮したのか、完全に元の口調に戻ってるわね。まぁそれはいいとして、あの食事をここまで絶賛するなんて、この国の食糧事情ってどうなっているのかしら? そこでふと思い立つ

 「今出しているものが高級料理店に匹敵するとなると、それはちょっと問題があるかもね・・・・」
 「まっ待ってくれ! 俺の一言で飯のグレードが落ちたなんて事になったら仲間たちに殺されちまう!」

 私の一言で勘違いをしたのか、エルシモさんが急にあわてだした

 「ああ、そういう意味ではないから安心して」

 そう、問題があるのは食事と言うより私たちの常識の方だ。いろいろな価値観がこの世界とあまりにかけ離れすぎている気がするし、この状況はかなりまずいのではないかしら? これからの事を考えると、もう少し現状を把握してから慎重に行動しないと、とんでもない間違いを犯してしまうかもしれない

 「とりあえず実験してみるかな? エルシモさん、ちょっと待ってね」
 「解った・・・じゃ無くて、解りました」

 直接頼むよりこの方がいいかな?と思い、<メッセージ/伝言>をメルヴァに飛ばす

 「はい、アルフィン様。何か御用でしょうか?」
 「メルヴァ、ちょっと長引きそうだし、料理長に軽食としてサンドイッチを頼んでメイドに持って来させてもらえるかしら。あと、適当なワインもお願いね」
 「はい、最高級のものを選んでお持ちします」

 いや、それは困る

 「最高級はダメよ、あまりいい物だと堪能したくなってしまうから。ワインもサンドイッチと一緒に軽く飲むだけだからハウスワイン程度にしてね」
 「はい、承りました。料理長に急いで作らせて私が御持ちします」

 それはまずい、今からやる事をメルヴァに見せたらなにを言われるか解らないわ

 「ダメよ、メルヴァは仕事があるでしょう。それに手が空いている子に少しでも仕事を与えないといけないと言う話になっているのを忘れたの? ちゃんとメイドに持ってこさせるように。それではお願いね」
 「はい、では御命令通り手の空いているメイドに持って行かせる様にいたします」

 話が終わると、魔法を切ってエルシモさんに向き直る

 「さて、軽食が来るまでに少し時間があるだろうから別の話を聞かせてもらおうかしら」
 「あっああ」

 とりあえず、先程から出ている帝都の高級宿屋の話からでも聞かせてもらおうかな? そう言えば、この世界にもスプリングってあるのね、なんて事を考えながら聞きたい事が後から後から沸いて来て話が止まらなくなるアルフィンだった

あとがきのような、言い訳のようなもの


こんな長い話になるはずでは無かったんだけどなぁ。結局本題に行く前にこんなに長い話になってしまった。と言うわけで続きます。今回だけだとちょっと短めですが、全部書くと今までで最長だった前回以上に長くなりそうなので

 さて、とりあえずこの話で私が「ボッチプレイヤーの冒険」を始めた当初からやりたかったことの一端が見えてきます。題名の通り、このSSでは最強だけど意味がないと言う方向に話を進めるつもりです

 俺Teeeeee!を期待されている方はここまで話が進む前に離れて行ってるでしょうから、この路線で進んでもいいかな? と思っていますが、実際の所どうなんだろうと少し不安でもありますが

 あ、でもあくまでオーバーロード発生SSなのでオーバーロードのパロとしての戦闘は出てきますよ。ただ、世界征服とか大虐殺とか強敵が現れてバトルなんて展開にならないと言うだけです。当然ギャリソンがひどい目にあっている女性を助けてイングウェンザー城がハーレム化するなんて事もありませんw 捕まえるにしても小悪党くらいかなぁ。いや、ちょっと大きな事件も起こるか。その場合は収監所がにぎやかになるのかなぁ?

 でもまぁ、何よりハーメルンの方で残虐な描写と言うのが入っていない時点でお察しと言う事で

 最後に、来週の土日は出張なのでもしかするとお休みさせてもらうかもしれません。今週の平日に書ければいいのですが、私の場合こんな文章でも書くのに最低でも4時間以上、修正にも2時間以上かかってしまうので、次の話の長さによってはとても間に合わないかもしれないので

 まぁ、その時は次回で終わるはずの話をさらに2分割して、何とかアップするかもしれませんがw

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